2009年12月3日木曜日

イングロリアス・バスターズはきついジョークだと思えば面白い


クエンティン・タランティーノ監督の最新作「イングロリアス・バスターズ」を観てきました。

まず、個人的な感想としては、スカッとして面白かった。
ですが、これを「面白かった」で終わらせるのはちょっと危険です。
ナチスやホロコーストの史実の重みを度外視した、完全なファンタジーとして楽しまないと、歴史の見方が歪みそう。
敢えてナチへの復讐という危険なテーマをポップに仕上げた、タランティーノ節炸裂のチャレンジングな映画です。

全体を通して印象的なのは、タランティーノ監督の相変わらずの深い映画愛。
この映画のヒーローは、映画自体、映画フィルムそのものなのかな、と思いました。
終盤、映画フィルムが究極奥義のごとく活躍します。

76年の「地獄のバスターズ」のリメイク作、というのがこの映画の基本ですが、その他多くの映画オマージュが随所に感じられます。
古い映画の知識が浅いので、私には出所は分かりませんが、往年の映画ファンにはそういう点でも楽しめる作品といえます。

なによりも物議を醸しているのは、R15指定にもなっている暴力描写ですが、はてさて、殺戮ぶりは確かに激しく冷徹で、子供には悪い影響を与えかねない映像も多々含まれています。
テレビ放映する時は一体どう削るんでしょうか。あ、しないか。
でもバトルロワイヤルもテレビでやったしなあ・・・。編集が密かに楽しみな感じです。

主演のブラッド・ピットのやりすぎなぐらい楽しそうな演技が、殺戮シーンの印象を軽快なものにしてしまっている感があるので(これがタランティーノ流なのでしょうが)、殺人が簡単なものに見えるのもおそろしい点です。
戦時中はどこもこういう感覚だったのかな。
命って軽いなあと思うぐらいに全編を通して簡単に人が死にます。
皮を剥いだり、撲殺したり、絞殺したり、瞬間的に射殺したり。
無表情に、時に笑顔でやってしまいます。
クライマックスでは、天空の城ラピュタのムスカの名言「人がゴミのようだ~」を思い出してしまいました。

この映画はおおまかに言うと、ユダヤ系アメリカ人を中心に結成された極秘部隊「バスターズ」が、ナチスの兵士を次々に殺して復讐をしていくというストーリー。
ドイツ人向けのプレミア上映会と称して、ドイツのプロパガンダ映画を放映することになった小さな映画館が最終的な復讐劇の舞台になります。
登場人物の個性が強く、ポップで魅力的なのも、この映画が観客を飽きさせない一つの理由だろうと思います。
あと、女優が文句なく美しいので見つめがいがある。

バスターズのボスであるレイン中尉(ブラッド・ピット)、家族をナチに殺されたユダヤ人女性ショシャナ(メラニー・ロラン)、女優で二重スパイのブリジット(ダイアン・クルーガー)、そして
かなりのスリルとスパイスをもたらしてくれるのが、‘ユダヤ・ハンター’の異名を持つドイツ軍のハンス大佐(クリストフ・ヴァルツ)。
この4人が物語のカギとなります。
ハンス大佐が繰り広げる緊迫した中の言葉のやり取りの妙が、かなりスパイシーに映画を味付けしています。
またこの役者の表情がいい。

リアリティ追求のために、フランス語、ドイツ語、英語、ちょっとだけイタリア語が混じったセリフで脚本は構成されています。
配給はユニバーサルですが、英語はあんまり使われていません。
こういうこだわりに好感が持てる。 ハンス大佐のセリフなど、言葉が練られている感じがあってとても楽しい。
また、言葉やイントネーション、文化の違いもおさえて描かれており、物語の中盤では、数字を数えるときの指の立て方の文化的違いで射殺されてしまう場面も出てきます。

正直あんまり期待してなかったので、この振れ幅で私は好評価を持ちましたが、実際には賛否両論の映画だろうと思います。
グロテスクな描写を生理的に受け付けない人もいるだろうと思います。特に皮を剥ぐシーン。
とはいえ、黒沢映画のように血しぶきが飛び散るわけではなく、血を舐めたり飲んだりすることもなく、至って血の表現は現実的(いや、むしろ抑え気味)に感じました。
私としては、脳みそを食べるレクター博士の方が数段イヤですね。

この映画の面白さは、復讐が2重構造に進行していく点と、常に軽快で大胆なレイン中尉とバスターズの行動、鼻の効くハンス大佐の動向、そして誰が勝利するのか最後まで分からないという点だと思います。うーん、飽きさせません。

ところで、最後まで勝者が分からないこと&ブラピといえば、名作「セブン」を思い出します。
あれはケビン・スペイシーの役者力を感じましたねぇ。

このイングロリアス・バスターズも、役者力みなぎる快作です! ただし、描かれている歴史はあくまでファンタジー。
これを忘れず、「大敵をこんな風に復讐できたら面白くねぇ?」というレベルの大がかりなジョークだと思って、マシンガンと火炎の海に日ごろのウップンを投じましょう。
スカッとすること間違いなしです!!

ほいじゃあ。