2009年11月7日土曜日

マイケルジャクソン「ムーンウォーカー」本日封切り



今日も京都MOVIXにて初日鑑賞してきました。

実は、すでにDVDを持っていて、以前に自宅で見たことがあります。

今日の鑑賞は、大画面でこれを見れることは今後一切ないだろうという記念的な意味と、大変シュールな内容の本作を大画面・サラウンドで見ることの価値を検証したい思いを持って臨みました。

「THIS IS IT」の大成功があるので、こちらにもたくさん人が押し寄せるのでは?と思っていましたが、いざ訪れてみると結構まばらな人の入りでした。

初日一発目の14:35~の回、割と小さなシアターの大体5割程度。

内容を知ってのことか…、それほど興味が深くないという人が多いということか。


周辺のお客さんの反応も気にしながら、時間が来たのでフィルムに集中することにしました。


前半は、ジャクソン5時代からのPVのダイジェストがしばらく続きます。
「THIS IS IT」でマイケルのファンになり、映画としてのストーリーを期待して訪れたファンの方たちには、いつ始まるのか今か今かと惑わせるような唐突かつ脈絡のない映像が続いていきます。
私の両隣に座った二人連れの方たちは(ファンなり立てのようでした)、互いに顔を見合わせて難しい顔をされていました。

私は、まず始めにこれを言っておきたいと思います。
マイケルジャクソンは傑出した歌手であり、エンターテイナーです。映画監督ではないし、脚本家でもない。すなわち、「MOONWALKER」をストーリーの一本通った映画だと思って見るのは間違いである、ということ。まず前提としてここをおさえておかないと、戸惑い、ついていき損ねる可能性があります。

細かく分断されたそれぞれの映像の中のユニークな世界観やストーリー展開、現象をその場で楽しむ、ということが大切。次の動画に必ずしも繋がっていかないので、疑問を持たない、引きずらない。
これがMJのたぐいまれなる発想とチャレンジ精神、サービス精神が溢れた本作の適当な楽しみ方ではないかと思います。

前半の見どころとしては、SPEED DEMONとLEAVE ME ALONEの長めに挿入されたPVでしょう。
これは実は貴重。この映画の中でしかお目にかかることができない映像だからです。

SPEED DEMONは、クレイアニメーションの合成映像で、シャレが効いていて、少しストーリーもあって痛快な作品です。
MJが走る走る!MJのスタイルの良さ、チャーミングさなども十分に堪能できるので女性ファンにおススメです。
ただし、クレイのキャラクターがアメリカテイストたっぷりなので、日本人の目から見ると多少気持ちが悪いのは否めません。

LEAVE ME ALONEは、まるでコラージュのような現実離れした動画で、この時代においてはかなりスタイリッシュな映像となっています。この歌のMJの力強い歌声は、映画館の大音響で聞くと一層味わい深く感じられます。
このPVでは何と言っても、銀幕の有名人たちとのカメオ出演が見どころだとよく言われます。
乗り物に乗って進んでいくMJの周囲に登場する有名人が誰なのか、を確かめながら見るとより楽しめます。

LEAVE ME ALONEは「僕の周囲を嗅ぎまわるな、ほっといてくれ」という内容の歌で、またSPEED DEMONでは熱狂的なファンとパパラッチを振り切って逃げるというテーマの映像になっているので、なんだか当時のMJの周辺で起こっていたことと彼が抱えていた悩みが感じられて複雑な後味がのこります。
しかし、決して否定的ではなく後ろ向きでもない。状況を受け入れ、逃げることも楽しんでいるというような、半ば挑戦状的なニュアンスも汲み取れる、MJのタフさも表現された映像となっています。


それから引き続いて(分断されたストーリーの境目が分かりにくいのは難点)、後半にも登場するKIDsMJのBAD。

相当踊れる子供たちの競演です。BADの元のPVを知っていてこそ楽しめる内容ですので、これには予習が必要だと思われます。
MJの子供好きがうかがえる映像です。

唐突に始まる後半には、メインの3人の子供たちが登場します。
屋根の上からMJを見守る3人の子供が登場して間もなく、MJがマシンガンで銃撃されるところからストーリーが始まります。闇組織VS人間ではなさそうなMJと子供、という図式の映画です。

ストーリー展開・脚本ともに、子供向けな感じの内容ではありますが、そもそも子供が楽しめるようにとMJが意識して制作したのではないかと思われます。セリフもかなりEASYなので、大変わかりやすいです。
内容は(言ってしまえば)チープ。ただし、見るべきはMJの底知れぬ創造表現です。

特にMJの七変化がトンでいて想像を超えているので、その点を楽しもうと思って見ればこんなにエンターテインメントに尽力した作品はないと思います。

MJは毎週のように親友エリザベス・テイラーと共に映画を見に行っていたぐらいの大の映画好きです。
この時代のハリウッド映画の特撮の粋を集めて、MJはすべて試したかったのでしょうか。
その偉大なるチャレンジ精神に敬意を表しながら、後半の長編ストーリー(SMOOTH CRIMINAL)は数々の特撮手法を堪能するという姿勢で見ると2重におもしろく鑑賞できます。

カギになっているのは、やはり子供とMJの深い友情と、子供たちを守るためなら身を挺すMJの懸命な姿。そして、周囲のイメージに合わせたジョークなのか、MJ自身がそういう錯覚に陥っていたのかは不明ながらも、どうやら人間ではないMJのキャラクター設定。
MJがロボット化するクライマックスは、あまりのおもしろさに周辺のお客さんは吹き出していました。
まさに、エンターテインメント!気持ちよーく予想を裏切りながら、痛快に、軽やかにMJは子供たちを救出し、悪の組織を倒します。




特撮があまりに凄いので申し遅れましたが、この後半部分の中心は、SMOOTH CRIMINAL。
その他のDVDで見られる同曲のPVにも使用されている大元の映像です。
かなり作りこまれていて、アンチ・グラビティ・レーンも、密集したダンサーとシンクロした動きも完璧。
社交ダンス風の振り付けもあり、ダンサー・MJの違った一面を見ることもできます。
途中、間があり全体で身体表現をする場面があるのが、スパイスになっていておもしろい構成です。
SMOOTH CRIMINALの歌詞の内容とストーリーは無関係ですが、MJ的に同曲にストーリー付けをしたらこのような映像に仕上がった、というところでしょうか。あくまで想像です。

後半部分の始めあたりに、MJが庭園で子供たちと遊ぶ場面があります。
おそらくここは、MJのネバーランド・ランチです。ファンは刮目!


最後の締めは、帰ってきたMJが子供たちを案内した先でステージに立つという、微妙に続いたストーリー。
私たちが一般的に知るMJにここで変身する、といった具合でしょうか。
最後に歌いあげられるビートルズのカバー曲であるCOME TOGETHERは、ファン的には垂涎ものの映像です。他ではなかなかお目にかかれないので。
この舞台シーンだけで、大スクリーン・サラウンド環境に来たことに間違いはなかったと思わせてくれます。
MJの歌声は力強く、丁寧で、感動させる魔力に溢れています。それを実感できるシーンです。


後半のストーリーを通して、MJは何が言いたかったのか…を考えてみました。
まずは、子供を愛しているということ。子供を守ろう、いじめるなということ。そして、MJは子供の前では素顔の自分になれるということ。子供のためなら、なんだってできる、という決意。そして、自分を人間扱いしていない周囲への皮肉。ファンの前ではスターの顔になり(普段の自分ではなく)、全力で期待に応えるというプライド。

このような、私的とも取れる切実なメッセージが込められた作品なのだと思います。

素顔の自分を見せることをためらい、報道記者やパパラッチからプライバシーを守ることに神経を尖らせ、関わりのある子供たち意外の世間から距離を置いたMJの当時の状況が伺えます…。

映画全編に何か一貫したメッセージを読み取ろうとするなら、大衆に向けたこのような内容のMJからの手紙と私は解釈します。
そこには、飄々としながらもやや切迫したMJの姿が感じられはしないでしょうか。

ただのエンターテインメント画像作品集として楽しむのもいいでしょう。
MJのずば抜けた才能は十分に発揮されているのですから。
ですが、ファンとしてはMJの当時の心理状態や興味関心を知る手掛かりにもなり、その生活状況を想像すると、ただ楽しむだけではやり過ごせない何かが残る作品でした。


冒頭で述べました‘大画面・サラウンドで見る価値’の検証ですが、最後のステージシーンとLEAVE ME ALONE以外は、DVDの自宅鑑賞でかまわんなあというのが正直な感想です。主に映画館のサラウンドが功を奏し、このような結論です。

映像は、一貫してシュール。映像技術が進歩した現代では、大画面では見るに堪えない特撮(酷評しすぎかな)の羅列とも言えるので、画面的には特筆すべき部分はありません。テレビサイズで十分です。

「THIS IS IT」のライブ感覚を別の曲で大画面で味わいたい人は、この「MOONWALKER」に足を運び、最後のステージシーンをお待ちください。


映画が終わり、シアターから出ていくお客さん達のほとんどが無言だったのが印象的でした。

驚愕…?あっけにとられた…?
とにかく、「絶句」といったところでしょうか。
話す言葉が見つからない、という間がしばらくある感じでした。


以前にも書きましたが、この映画は、賛否両論の怪作です。
MJの昔の曲をよく聞いておかないと、前半はついていけない(特にミック・ジャガーとのduet曲であるSTATE OF SHOCKは…なんで入ってるんだろう?ニッチなチョイスだと思う)、後半はストーリーを重視していてははまたついていけない。

MJの発想力のOUTPUTをただ楽しむ!ここをお忘れなく鑑賞なされば、きっと深い部分で理解ができるのではないでしょうか。

映画「THIS IS IT」でMJのまっとうなヒューマニタリアン精神に感激して、同じテンションでこの映画を見に来られたら、せっかく増えたファンが減ってしまうのではないか??ということさえ(私なんかが申すのは無用ながらも)心配してしまいます。
せっかくファンがたくさん増えたところなのに、JACKO(変人ジャクソン君)というイメージが復活してしまうとあまりに悲しい。…ファンは悲しいです。

MJと同じく謎に包まれ突然の死を迎えた偉大な歴史的スター・BRUCE LEEは、このようなことを言っていました。

「DON'T THINK, FEEL !」(映画「燃えよドラゴン」から)

深く考えずにただMJの凄さを感じて欲しい、という言葉を添えて、「MOONWALKER」をおススメしたいと思います。

長くなりました。


ほいじゃあ☆